【心霊】古い着物と祠
コロナ禍の中で、外出もままならず断捨離でもしてみようか、と部屋の整理をした人は多いのではないか。
筆者もその一人。
ふと、昔処分した着物のことを思い出したのでそれについて書いてみたい。
着物の中古販売会場
成人式に着る着物を選びに来ている。
着物販売をしている叔母の誘いだ。
金額もピンキリで、安い物でも80万はくだらない。
帯や草履も合わせると、ゆうに100万は超える。
久遠「おばさん。とてもじゃないけどこんなに高くちゃ、私の収入じゃローンも組めないよ。」
そういって、あきらて帰ろうとした時、
叔母「あまり進めたくはないけど、奥に下取りして綺麗にお直した着物があるから、それ見てみる?」
まぁ、叔母も売上が成績につながるだろうし、高い品を売りたい気持ちはわかるが、如何せん。
先立つものが。
式で着るだけの着物にそんなに予算はかけられない。
お古でも何でも安くて綺麗であれば。
叔母「これなんかどう?あなたに似合うと思うけど。」
そう言って、叔母が奥から出してきた着物は、古着とは思えないほど見事な着物だった。
妖しいほどに美しい紫色の着物は引き込まれそうなオーラを放っていた。
目立つ柄や模様などはなく、控えめに袖に小さなボタンの花が刺繍されている程度。
シンプルで好みだ。
一瞬で魅了された。
叔母「特別に安く譲るんだから内緒よ?」
そういって、いそいそと表の接客へと戻っていった。

夜風にたなびく紫の着物
無事成人式も終わり、有り金をはたいて購入した美しい着物は、既にぞんざいな扱われよう。
壁の衣紋掛け(えもんかけ)に適当に下げられたままになっている。
(片付けなくちゃな)
そう思いながらも季節は過ぎ、既に初夏を迎えていた。
ある晩、同居人の帰りを待ちながらソファで転寝(うたたね)をしていた。
先に休みたかったのだが、同居人が部屋のカギを忘れて出かけてしまっていたのだ。
バタン
勢いよく玄関のドアが開く音がした。
(あれ?カギ開けたままにしてたっけかな?)
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
時計に目をやると午前2時を過ぎている。
それにしても、酔っているのだろうか。
ドアは開かれたまま一向に入ってくる様子がない。
玄関で寝られては困る。
そう思って身体を起こそうとした瞬間、人影が物凄い勢いで私に向かってくる。
(え?)
起きる間もなく、その影は私を飛び越えて、入り口とは反対側にあるベランダへと走り去った。
長い髪の女だ。
そして、その女の後を追うように、ひらりと紫色の着物が落ちていくのが見えた。
着物をかけていたはずの壁を見る。
そこにはいつもと変りなく、紫の着物が夜風に揺れていた。
空中を移動する祠

同居人は結局まだ帰っていない。
日曜の朝。
飲み歩いて友人の家にでも泊っているのだろう。
あのおかしな出来事の後、私もいつの間にか寝てしまったようだ。
(そうだ。玄関が開いたままじゃ。)
慌てて確認しに行ったが、ドアはしっかり閉まっていた。
なんなら、カギもしっかりかかっている。
一体、昨夜の出来事はなんだったのか。
夢か?(夢であってほしい)
心のどこかで霊の仕業ではないかとも思いながらも、気持ちを誤魔化しやり過ごそうとしていた。
そんなことを考えながら、ぼんやりと再びソファに座り込んだ。
(ん?え?え?なに?)
目の前の窓の外にみえる光景に目を疑った。
祠がユラユラと宙に浮いて移動している。
何事かと窓辺に駆け寄ると、クレーンで吊られた祠がゆっくり、建物の横を通りベランダ下にある駐車場へと運ばれていた。
当時私の暮らしていた場所は、沖縄では有名な橋の側に立つアパートだった。
そのアパートの2階の角部屋が私の住まいだった。
階下は大家さんが住んでおり、そこから
「久遠さ~ん。」
呆気に取られていると、その駐車場から呼ぶ声がした。
ベランダから顔を出すと大家さんの姿が。
大家「日曜の朝からごめんなさいね。
となりの橋の取り壊しが決まって・・・それでね・・・・・なの。」
周囲の工事車両がうるさくてよく聞き取れない。
詳しい話を聞くために、一旦下りることに。
人柱になった巫女を祀る祠
改めて大家さんから話を聞く。
橋の改修工事を行うことになり、一時的にうちのアパートの敷地内に設置することになったそうだ。
その昔、度重なる川の氾濫で流されるこの橋に心を痛めた巫女が、自ら人柱になることを申し出たのだそう。
大家「この祠は、その巫女さんをお祀りしているものなのよ。」
そう言って大家さんは持っていた資料館のパンフレットを見せてくれた。
そこに描かれた絵には、紫色の衣を羽織り、気品高く長い髪を虹色の紐で束ねた若い巫女の姿があった。
(私の着物に似ている・・・)
昨夜の出来事は、工事に際して巫女の霊が私の部屋を抜けてベランダから移動したのかもしれない。
そう思うとなんと律儀な人物だったのだろうかと親近感が持てた。
通りすがりにこの魅惑的な紫色を放つ着物に感応したのかもしれない。
この着物がどうした経緯で下取りされたのかはわからないが、着物に宿る思いと巫女の霊につながるものがあったのだろう。
その着物は今でも大切に箪笥の奥で眠っている。
古い着物やブランド品はきちんとご供養をしてから身に着けよう
古い着物やブランド品は思いがこもりやすい。
中古品は様々な理由から持ち主の手から離れ、新たな持ち主の手に渡る。
なんとなく手放したその着物やブランド品には、誰かの思いが詰まっている。
その思いは時として故人のものだったりする。
そしてそうした思いは「付喪神(つくもがみ)」となって独り歩きするという。
そうならないよう、中古で手にした高価な品は一度お香の煙で燻すなどして身に着けよう。
展示品のソファやベッドも要注意だ。